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りはなかった。「他のクルーは『レート』という1分間に漕ぐ回数が多いチームでしたが、私たちは回数が少ないかわりに一回の漕ぎで大きく力強く進むことを大切にしていました。序盤は他クルーに出られたとしても1000mを越えてからが勝負というプランでした」と阿南選手は振り返る。その言葉通り徐々に差を詰めていき、1000m地点では1位と0.7秒差まで迫る。勝負どころでは経験豊富な阿南選手がペアをリードする。「阿南選手が“抜けるから行くよ!”と声を掛けてくれたので、私はそれを信じて動くだけでした」と山本選手もそれに応える。1250m地点で並ぶと一気に勝負を仕掛け逆転。その後も他クルーの猛追を振り切り1着でゴール。プラン通りの見事な逆転劇だった。「“一本を強く、大きく漕ぐ”を最後まで意識し続けられたこと」が勝因だと2人は語る。「お互いを信じて自分たちの漕ぎに集中できたと思います」と阿南選手。山本選手は「苦しいレースでしたが2人で声を掛け合いながら耐え続け、狙っていた勝負どころでしっかり仕掛けていけました」と分析した。今後の目標を聞かれると2人は揃って「海外で活躍すること」と答えた。「競技を始めた時から世界で活躍できる選手を目標にしています。その第一歩として日本代表選考で良いパフォーマンスをして、そこから次に繋げていきたいです」と阿南選手。山本選手は「私も日本代表で活躍するのが目標です。最終的には戸田中央総合病院RCの先輩・柿島麗うららさん(2023年シニア日本代表、今年の全日本選手権で引退)のように海外で活躍したいです」と抱負を語った。戸田から始まった“シンデレラガールズ”のストーリーは、近い未来国境を越えて続いていくに違いない。「絶対に私たちが一番速い」今年5月に行われた第103回全日本ローイング選手権大会。山本天そら空選手・阿南美咲選手は「女子ペア」で出場し優勝。同種目では2018年の準優勝がチーム最高成績であり、全日本優勝はチーム史上初めて。さらに、2人は今年入職したばかりでペアを組んでからわずか2ヶ月での優勝という快挙ずくめのタイトル獲得だった。同クラブでは、伝統種目でもある「男子フォア」の四連覇がかかっており、皆の関心は男子フォアのレースに注がれていた(結果:準優勝)。そんな中でも阿南選手には確固たる自信があった。「絶対に私たちが一番速いからね」決勝レース直前、山本選手と言葉を交わした。「ペアを組んだときから“全日本選手権で絶対に優勝できる”と確信した状態でスタート地点に立ちたかった」と阿南選手。大学時代にも全日本選手権での優勝を経験していた阿南選手は、短い準備期間でもブレることなく優勝に向けて突き進んでいた。一方で、山本選手は不安だらけのスタートだった。山本選手が過去経験していたのは2本のオールを使うスカル種目。1本のオールを使って漕ぐスイープ種目の「女子ペア」は全くの未経験。また、2人以上でボートに乗る“クルーボート”もほとんど経験がなかった。「試合の経験もないですし、スイープ種目でのオールの動かし方も理解していない“まっさらな状態”からのスタートでした」と不安が大きかった山本選手。それでも、驚異的なセンスで瞬く間に適応していった。「始めて1ヶ月の時点で私が大学4年間で学んだ半分くらいは出来るようになっていました」と阿南選手はその上達ぶりに舌を巻いた。「私たちが一番速い」のフレーズは、2人の経験と実力が融合し、確かな自信になっていたことの証しだったのだ。“一本を強く、大きく漕ぐ”を最後まで意識決勝レース序盤、中部電力・神戸大学にリードを許し、500m地点を2秒差の3位で通過する展開となったが、2人に焦の快挙!・ストーリー”ATHLETEINTERVIEW描いた勝負のカギはレース後半プラン通りの逆転劇MISAKIANAN選手阿南美咲35